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Klinefelter症候群とTurner症候群を遺伝子発現・ゲノム解析によって比較する

Integrated functional genomic analyses of Klinefelter and Turner syndromes reveal global network effects of altered X chromosome dosage

doi 10.1073/pnas.1910003117

アメリ

 

個人的感想

KSとTSを比較した論文が2つ出ていた。ようやく、といった感じだ。
X染色体の過不足で何が起きるのか、特にKSとTSでは、正反対(増加または減少)に発現しているX染色体遺伝子群があり、これらと常染色体間とのグルーバルなネットワークが疾患と深く関連していると示唆される。

 

論文の要約

ターナー症候群(TS 45X)は約2000人に一人、クラインフェルター症候群(KS 47XXY)は約600人に一人の割合で生まれる、珍しくない染色体数異常であるが、様々な症状の原因となる遺伝子の機構についてあまりよく分かっていない。これまでに分かっているのは、SHOX geneがTSでの低身長、KSでの高身長と関連していることくらいである。
女性では2本あるX染色体のうち1本はlncRNAであるXISTによって不活化される(XCI)が、いくつかの遺伝子はこの抑制から逃れる(エスケープgenes)。
X染色体数の違いで起こるTS,KSの表現型がこれらエスケープgenesと関連しているのではないか、と推測される。

そこで今回TS、KS、一般男女のPBMC(末梢血単核細胞)を用いて、RNAseq, genome-wide targeted-capture bisulfite及びHi-C を行って比較した。

ちなみにRNAseq (XO  13サンプル、XXY 14、XX 15、XY 12)、bisulfiteは各々4サンプル、Hi-C はそれぞれ1つ、計70サンプルがGSE126712に載っている

 

DEG解析の結果

◆TS(XO)とXXとの比較では、予想された通りXOではX染色体のエスケープgenesの発現がdose dependentに下がる。一方、XCI領域にある遺伝子の一部(論文ではinactive genesと呼んでいる)がコントロールより上がっていた。XCI領域にある遺伝子は、XX女性でも片方が抑えられているので、XOと同じ量になると思いがちだが、そんなに単純な仕組みではないようだ。

さらにDEG1142個中 1070個は常染色体であった。1070個中145個は、sex-biased expression が報告されている。パスウェイエンリッチメント解析の一位は免疫反応パスウェイだった。

◆XXYとXYの比較では、XOとXXに比べて、DEGは数が少なく(241個)、パスウェイ解析もbiological adhesion 等目立ったものではなかった。

XXYで高発現する遺伝子のうちX染色体上にあるのが40個、うち33個はエスケープgenesで、X染色体の余分なコピーがあるXXYでは予想通りであった。

Y染色体上の遺伝子にはDEGが認められなかった。

 ◆XXYとXXで比較した結果 XIST, JPXの発現量に違いが無かった。つまりクラインフェルター症候群の余分なX染色体は一般女性と同じ様に不活化されている。

 ◆pseudoautosomal region(PAR)はX染色体とY染色体間で相同の領域で、PAR1はXpの端、PAR2はXqの端である。PAR1にある遺伝子の多くが性染色体数に比例した発現をしていた。

 ◆ターナー(XO)と一般女性を比較したDEGと、クラインフェルター(XXY)と一般男性を比較したDEGでオーバーラップする94遺伝子に注目すると、
94遺伝子中 X染色体にあるのが31(うち26がエスケープgenes)、他63は常染色体にあり、興味深いことに94個中93個で、正反対の発現プロファイル(XX女性に比べてXOで低下なら、XY男性に比べてXXYでは増加)であった。

(この論文の一番のツボだと思う)

 

◆性染色体数の違いによるX染色体上の遺伝子発現変化が、PAR1やエスケープ遺伝子以外に、XCIを受ける領域にある遺伝子や、常染色体にも大きな影響を及ぼしている。

ZFX、ZBED1遺伝子がこれらの転写ネットワークに関与しているかもしれない。

 KSに対する責任遺伝子の候補として RPS4X, SEPT6, NKRF, CXOrf57, NAA10, FLNAを見つけることができた。

ゲノムワイドなDNAメチル化の検証では、遺伝子発現プロファイルとの相関はほとんど見られなかったが、KSで CXorf57 とNKRFはメチル化の変化があった。